8月。全国の将棋キッズが目標とする全国大会
『大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦』が岡山県倉敷市文芸館で開催されます。
小学生低学年部門と高学年部門に分かれ、各都道府県予選を経て代表になった子たちが全国から集まる、一つ勝つのも難しい全国小学生倉敷王将戦。過去の優勝者をみると、藤井聡太七冠をはじめ佐々木勇気先生、佐々木大地先生、菅井竜也先生…と多数のプロ棋士を輩出しています。
(予選会は各都道府県で異なります。早い所は半年程前から)
この大会の結果を経て奨励会試験(プロ棋士を目指すため)を受験する、いわばプロを目指す子にとっては奨励会試験前の登竜門的な大会。
目標を立てた将棋少女は、この夏。そんなハイレベルな大会に挑戦することになりました。
大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦 ルール等 | |
持ち時間 | 20分 |
秒読み | 30秒 |
大会進行 | 8人一組リーグ戦 (3連勝で決勝トーナメント) |
場所 | 倉敷市文芸館 |
大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦まで
将棋少女は、普段から実力が伴わず運勝負の将棋が多く県代表クラス相手に勝てる気配がありません。このままでは、今年の全国小学生倉敷王将戦で1勝する事もできず泣いてしまう事は明白です。
そんな将棋少女に、全国小学生倉敷王将戦にむけて1つの武器を作ろうと提案しました。
この形だったら負けない!
絶対勝てる!っていう武器を作ろう。
好きな戦法でもいいよ?
好きな戦法…
負けてもいいから好きな戦法で戦ってみよう♪
棒銀の受け方であったり、腰掛銀や角換わりの手順。定跡や手筋。できない事ばかり。全体的に練習したほうが将来の強さに繋がるのかもしれませんが、倉敷までの短い期間。出来ることは限られます。
才能がない将棋少女が1勝をあげるには、1つに特化してチャンスに刺せる武器を作るしかないと考えました。
実際、天童に行った時も仙台に行った時も泣かせてしまいます。それでも、反抗するわけでも怒るわけでもなく、将棋少女は泣きながら一つの事を繰り返します。
年上の子に負けて勉強不足と嘆き、年下の子に負けて才能がないと嘆き。この一年泣いてばかりでした。少しは、強くなったでしょうか…。
倉敷までの交通費
大山名人杯争奪倉敷王将戦は岡山県倉敷市で行われます。
全国から移動となるのでそれなりに旅費もかかってしまうのですが、この大山名人杯全国小学生倉敷王将戦は交通費補助があります。
参加地域により異なりますが、概ね子供の交通費・宿泊費がカバーされる程支給されます。
子どもの晴れの舞台。応援する家族の金銭的負担を支援してくださり、また遠方者向けに倉敷観光マップや宿泊施設情報も事前に届き大変助かります。
倉敷までの移動
飛行機・新幹線・サンライズ出雲
全国から倉敷への移動方法は多岐にわたりますが、東北から向かう将棋少女の場合はどうでしょう。
まず、飛行機。岡山空港への直行便はありませんので、羽田空港で乗換えが必要で岡山空港から倉敷まではバスになります。新幹線の場合は、東北から新幹線で東京に。そして、東京から倉敷までは新幹線と在来線になります。
飛行機落ちたら死ぬ。コワイ。乗らない
早く目的地に到着できるのは新幹線や飛行機ですが、将棋少女が選んだのは…寝台特急サンライズ出雲。
大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦は倉敷で行われます。寝台特急であるサンライズ出雲のメリットは、東京駅から乗換なしで寝ている間に開催地最寄り駅である倉敷駅に到着する事です。
さらに、サンライズ出雲は東京駅を22時頃出発なので、仕事帰りに倉敷に向かうことができます。(移動日を一日省略)
東京駅からは乗り換えもなく目的地に辿り着けますので、倉敷までのオススメの移動手段だったりします。
・東京駅から乗換えなしで倉敷へ
・夜出発で移動日を一日省略
・今は懐かしい寝台列車を子供に体験させられる
ただし、寝台特急サンライズ出雲・瀬戸は超絶人気列車の為、販売開始5分で座席が売り切れる事も。予約、もしくは駅窓口で10時打ちをお願いしましょう。
(1か月前の10時に販売開始)
・座席がすぐ売れきれる
・電車の揺れが苦手な場合は10時間乗車は厳しい
・寝台料金を含めると、新幹線より少し割高
サンライズ出雲 ノビノビ座席
サンライズ出雲・瀬戸にはA/B個室がありますが、個室が取れなかった場合ノビノビ座席という手があります。ノビノビ座席は、個室ではなく開けた上下二段カーペット敷きの車両。座席という名前ですが横になって寝ることができます。
寝台料金が発生しないので、新幹線より安く移動費を節約したい場合はこちらです。
カーペットは硬くて寝れないという場合は、キャンプ用のコンパクトに収納できるクッション・マット等がおすすめ。写真のインフレーターマットは、付属の収納袋による空気入れも簡単で、頭上にあるエアコンの風利用に慣れると、ものの2分程で完成。
子どもは、こういった準備・移動も旅の一つとして楽しんでくれます。サイズも丁度よく、朝まで寝る準備は完了。
サンライズ出雲 トラブル発生① 鹿と衝突?!
さて、東京駅からサンライズ出雲に乗車してあとは倉敷到着まで寝るだけ。だったのですが…
深夜、僅かな衝撃のあとサンライズ出雲は急停車します。
どうやら鹿と衝突したらしく、安全確認のため出発が遅れる模様。
本来ならばそろそろ岡山に到着する頃ですが、山中にて停車中。まだ大阪にも着いていません。車内はバタバタ。
早朝5時頃。
車内アナウンスがあり、ようやく出発。深夜のアクシデントで、あまり寝れないままでの倉敷到着。大人なら一徹ぐらい問題ないですが、小学生低学年の女の子には流石に厳しく眠そう…。
長距離遠征では何があるかわかりませんので、前泊(前入り)が大事です。
大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦 前日練習対局
さて、大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦の前日は、倉敷市文芸館別館(大山名人記念館側)の2階で練習対局が行われます。全国から集まった都道府県代表者と練習対局できる、またとない機会。
親としては、スケジュールさえあえばぜひ参加させたいのですが、うちの将棋少女のようにメンタルが弱い場合、負けすぎると自信を失ってしまう事もあるかもしれないので難しいところ。
練習対局の時間は、10:00~16:30。申込用紙に県名、学年、名前を記入して申し込み。付添できた兄弟も参加できたりします。
別館の2階にある会議室(202)には、都道府県代表者の自信に満ちた高い駒音が響きます。
自分の弱さを知ってか将棋少女は、怖がり対局を渋ります。それでも、上のレベルを知らなければ。と泣かれるとわかって対局に申込み。将棋少女には、数局全国レベルを体験できたからといってすぐさまそのレベルに達する才能はありません。
夜まで、泣きながら復習します。
大山名人杯全国小学生倉敷王将戦 大会当日
大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦は、倉敷市の文芸館ホールで行われます。
入口では、記念写真の列。中に入ると低学年・高学年に分かれての受付。
手荷物預かりクローク
大山名人もなか売店
昨年は、新型コロナウイルスの影響で抽選はなく事前に組み合わせが決められていました。今年は、抽選箱が見えます。どうやら、箱から番号札をとる抽選方式。
怖いだらけの大会で唯一の楽しみにしていたのがこの抽選。早めの到着で、リーグ表はほとんど埋まっていない状態。誰と対局するのか不明のままホールに入場します。
「この日の為に何年も頑張ってきたんだから、しっかりしなさい!」
激励が聞こえます。プロ棋士を目指して何年も何年も。就学前から努力してきた子たちの一つのゴール。当然、親も真剣になります。
…まるで場違いな将棋少女は、会場の隅で怯えます。
1回も勝てなかったらごめんなさい
倉敷市の伊藤香市長をはじめ関係者様のあたたかいご挨拶があり、全国小学生倉敷王将戦開催にあたって励ましの言葉を頂戴します。
それから子供たちは、ステージに集合しての記念撮影。対局前とあって顔が強張りますが、逆に凛々しくもみえます。その後は、各リーグの対局席に移動。そして、ここで対局前に5分間の撮影タイムが設けられます。カメラのご用意を。
(ペットボトル等の飲料は、対局席ではなくステージ横の飲み物置き場に置きます)
予選リーグ 対局開始
予選リーグ 一回戦
目標にしていた全国小学生倉敷王将戦。怖がりながらも丁寧に指して、序盤から優位を築く事に成功します。指し慣れている形というのもあり、そのまま押し切れると見ていたのですが…問題はそこで発生。
うわーん…
以前からその傾向はあり、臆病で周りを気にする女の子。ましてや、全国大会に出てくるような県代表クラスが相手。昨夜からの自信を喪失している状態なら十分ありえました。
間違えた箇所も間違えた理由もわかるのですが、全ては対面対局経験の少なさからくる弱さ…。
一番好きな戦法で知ってる局面で練習もしてきた形。それでも負けてしまった事に、それまで我慢していた言葉が溢れてきて泣き崩れます…
もう全部勝てない…。何やっても勝てない…
どうすればい…い?
…うわーん
………
将棋はね、急に強くなるなんてないよ。
失敗を復習して、修正して次に活かす。その繰り返し。
…ぐすん
だから、今の全力で戦ってきて、
それでも負けたら失敗したところを一緒に復習しよう。
将棋少女は会場の隅で辛そうに泣いて…。そんな状況を作ってしまった情けない親ですが、気持ちで負けていたらどうにもならない事ぐらいはわかります。
予選リーグ その後
勝てない…全部負ける…
そうだね。みんな強いね。
全部負けてもいいから。
盤面だけみて周りは気にしない。手を曲げる必要ないよ。
いつも通り時間たくさん使って、出来る限り潜っておいで。
きっと大好きな詰め将棋を見つけられるよ
ぐすっ…
泣きながら2回戦に向かいます。
早指しができない・考えるのが遅い将棋少女は、当たり前のようにグループ最後の一組に。相手の子の手が何度も伸び、将棋少女は自玉をなんとか逃がそうと…
苦しんでいる様子を遠くから眺めるしかできず…後悔は山ほど。この一年、もっとやりようがあったのではないか。もっと早く始めれなかったのか。無理やりにでも将棋道場に通わせるべきだったと。
全敗を覚悟し、この先どうしたらいいのか。ステージを見るのも辛くなります。暫くして顔を上げると将棋少女は、俯きながらゆっくりステージを降りてきます。
一歩一歩ゆっくり…
か、勝てたよ?
え!
優勝候補でもなければ、決勝トーナメントに進出できたわけでもない。ただの将棋が好きなだけの女の子の小さい一勝。将棋少女は、勝てた事に驚いて泣きだします。
小さい体で、怖くて怖くて怯えながらも頑張った先で掴んだ勝利。
100手を超え秒読み間際。囲いは既になく、攻められ追われながらも決めた今の限界。
精一杯の11手詰め。
倉敷での勝利は、頑張ってきた証として笑顔と涙を運んでくれました。
指導対局 & 親善対局
惜しくも決勝トーナメントに進出できなかった子たちは、ロビーにて指導対局と親善対局に参加することができます。
菅井竜也先生の
「今日は全員平手でやるかー!」の掛け声に会場は大盛りあがり。
平手は冗談として、それでも全国から集まる代表者。かなり少ない駒落ち数で挑んでいます。
さて、予選リーグから休憩を経て落ちついた将棋少女に確認します。
駒落ち大丈夫?
…
将棋道場に通っていれば基本?(10枚落ち?)から順番に習ってこれたのでしょうけれど、『棋士・藤井聡太の将棋トレーニング』で育ってきた将棋少女はその辺りがわかりません。
急いで激指定跡道場を立ち上げ、順番がくるまで二時間程叩き込みます。駒落ち対局というのは、駒得している状態から無理せずに指す練習になるのでしょう。将棋少女の苦手な部分です。
指導していただける先生は、村山慈明先生。見栄を張らず枚数を落としてもらいます。そして、覚えが悪い将棋少女はタブレットを横に指導対局にのぞみます。
他の子よりやっぱり遅く、2・3周でやっと1手指すぐらいでしょうか。順調に進んでかなり優勢になってきていますが、一瞬の隙をついて先生の勝負手。攻められるとは思ってもいない将棋少女はいつものように手がとまってしまいます。攻めにばかり時間を使い、受けに意識が向いていないことを瞬時に見抜かれ指摘されます。悪い癖です。
最後の一人になるまで優しく教えていただきました。ご指導ありがとうございました。
大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦を終えて
大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦
周りは都道府県予選を勝ち上がってきた強い男の子ばかり。高い駒音一つで怯える程心が弱く、勝負事に向かない・才能もない女の子には過酷な道でした。出場者の親御さんからお話を伺うと、将棋合宿への参加や日々の勉強の取り組み方と、ここに至るまでのプロセスがまるで違います。
さらに、決勝トーナメントはまったくの別物。就学前(年長・年中)に初段、低学年で二段・三段と駆け上がっているプロ棋士を目指している天才な子達が集まります。決勝も見ましたが、もう将棋の質が違います。
目標である『大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦で1勝する』はなんとか達成できましたが、全国大会予選落ち。一勝だけでも…と藻掻いていた女の子には、あまりにも遠い世界。
それでも、褒めたいと思います。泣きながらも一所懸命な姿をみてきました。知らない土地で、全国から集まった代表クラス相手に女の子1人、怖くなかったはずがありません。将棋少女の通っている小学校は、基本部活動なし。全国大会出場の壮行会もなく、今回の様子が地元の新聞に載ることもなければ、学校で話題になることも壇上に上がることもありません。
将来、目一杯褒める為に…せめて、頑張った記録をここに。
今回、大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦に出場してきました。
『倉敷王将戦で1勝する』という目標を達成する為に、一つの武器を育てる必要がありましたが、この一年うまく出来ずわからずいつも泣いてばかり。前日の練習対局も、当日の倉敷王将戦でも泣きました。
それでも、目標を達成できたのは、日々の勉強から各地の大会で泣いた後のフォロー等々、皆様のご協力あっての事でした。
いつも将棋に無知な父娘に、ご助言・応援ありがとうございます。零した対局に大泣きしましたが、全国大会で勝利をあげる事ができました。これからも、色々とご迷惑をお掛け致しますが、緩やかな娘の歩みを見守っていただければと存じます。
そして、大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦を開催してくださった関係者の皆様。全国の少年少女が目標とし切磋琢磨できる場を本当にありがとうございます。これほど厳しい倉敷王将戦だからこそ、予選会からも含め、勝った子も負けた子も次に向かう目標が生まれ成長できたはずです。
また、対局してくれた子たち、倉敷で出会った皆様。ありがとうございました。おかげ様で素敵な将棋旅になりました。中々倉敷に来ることはできませんが、この思い出を胸にいつかまた成長した姿で訪れたいと思います。
それでは、泣き虫な将棋少女ですがお会いできましたら何卒宜しくお願い致します。
家に帰るまでが将棋大会
美観地区
大会が終わり夕方。美観地区を通ります。
倉敷川には、まだまだたくさんの観光客。
記念の箸を作って、おいしいうどんを食べて。おばけの木を怖がって、倉敷パフェは売り切れで。
頑張ったご褒美に、帰り道少しだけの観光。
明日からは、また将棋の練習。できない事、知らない事が多すぎて大変ですが、暫しの休憩です。
銭湯 えびす湯
記録的な暑さが続き、倉敷も連日猛暑日で40度近い気温。
暑さに弱い将棋少女は、投了ぎみ。涼めるところはないかと歩いていると、倉敷市文芸館からの帰り道、倉敷駅すぐ近くで『銭湯えびす湯』さんを発見。
大正創業100年以上の時代を感じる建物に入ると…20円で動く手動式自動マッサージ器や、昔ながらの体重計。そして、フルーツ牛乳(瓶)。
思いがけず、昔ながらの銭湯を倉敷で教えることができました。
サンライズ出雲 トラブル②
帰りもサンライズ出雲を選択。
大会と暑さで疲れているので、すぐ横になります。
東京までぐっすりのはずが…早朝、またしても車内アナウンスが流れ叩き起こされます。
「〜〜運行不能のため、サンライズ出雲は静岡にて車庫に入ります。」
まさかの往復でのトラブル発生。しかも、重症。静岡駅で通勤時間帯のこだま(自由席)への振替輸送が案内され、こだま(自由席)の乗車口にダッシュで向かいます。
東北新幹線はやぶさは全車指定席なので、自由席確保のために今は並ぶ事はありません。その昔、座席が取れず、東京から終着駅まで数時間立ったままという昭和時代がありました。
将棋少女は眠そうでしたが、新幹線(自由席)の確保について教えることができたので良しとします。
以上、移動のトラブルも含めて一生の思い出になった大山名人杯争奪全国小学生倉敷王将戦の将棋旅でした。